確信犯

僕は関東に住んでいた。

父と母の実家は北海道にある。

二人の実家は近い。

父の友人の妹が母なのである。

兄は、そんなラブコメ展開を心底羨ましがっていた。

僕が中学生、兄が高校生の頃。

父と母は離婚する。

夫婦間の亀裂。

経済的理由。

息子達が結託し、父親の追い出しを企てた。

理由は色々あった。

一緒に暮らしていけば、いずれ兄が父を殺しかねない。

これが一番の理由だった。

父殺しはいけない。

聖書にもそう書かれている。

そんな悲惨な事態を避ける為、母は父を北海道に送り返した。

母と僕たち兄弟は関東に残る事になった。

父は実家で、年老いた母とふたりで暮らす事になった。

父と祖母は昔から上手くいってなかったらしい。

祖母の過干渉に父の嫌気がさしていたとかなんとか。

そんなふたりが再び一緒に暮らしても上手くいくはずがなかった。

父は脱走を繰り返した。

友人のいない父は我が家を目指す。

呪いの人形の様に何度捨てても戻ってきた。

その頃の兄は父が実家に戻ったこともあり、珍しく安定していた時期であった。

いつの間にか戻ってくる気味の悪い人形。

そんな父に兄は怪訝な顔こそすれども、K点を超える事はしなかった。

そんな兄の姿に、父も母も油断しきってきた。

勿論、僕は猛反発した。

悲惨な事態は目に見えている。

「ここを血の海にする気か!?よそでやれ!!」

全力の保身である。

息子達の黄色い声援を受けながら、強靭なメンタルで酒を煽る父。

その光景は、兄の中のモンスターを目覚めさせるには十分である。

ちょっぴり大地が潤うと、父も母も状況を理解する。

そして北海道への強制送還。

しかし、彼らの記憶領域は破損しているらしい。

父の脱走劇は、その後何度も行われた。

時は過ぎ、僕たちの生活は変わった。

僕は一人暮らしをしていた。

兄は精神の病を診断され、母とふたりで暮らしていた。

そんなある日。

僕の携帯からサガ2のラスボスの曲が流れる。

母からの着信だ。

また金の催促か…。

加速する心拍数。

恋でもしたのだろうか。

震える指先で通話ボタンを押す。

カーサン「トーサンが脱走したみたい」

…。……。(冷や汗

あーっ!!お客様!!困ります!!

イケマセン!イケマセン!!

今の兄との鉢合わせはマズイ!!

大地が潤うだけでは済まない!!

父の安否よりも、父殺しの弟にならない為に!!

我が身の為に情報を得なければ!!

チッタ「状況は!?誰からのタレコミだ!?」

カーサン「仙台で止まってるって…」

チッタ「はぁ!?」

カーサン「計算を間違えて、こっちまで来るお金が足りなくなったって」

カーサン「だから、お金出せないかな?」

はあぁぁぁーーーー!?

つまり、こういう事らしい。

いつも通り、父は脱走した。

手持ちの金を全て使い、電車に乗り込み我が家へ向かう。

途中で計算を間違えている事に気付き、とりあえず行ける所まで。

それが仙台らしい。

ダウトォォォーーー!!

絶対嘘だよ!!

仙台から我が家まで、まだ半分あるよぉーーーー!!

絶対確信犯だよぉーーーーーー!!

行動起こせば金出さざるを得なくなるって思ったんだろ!!

その通りだよコンチクショーーー!!!

血の涙を流しながら、母に金を渡した。

なけなしのお金。

贅沢しないで貯めたお金。

それを奪われた。

それでも良かった。

父は死んでくれても良かったが、父殺しの弟にはならずに済んだ。

これで良かったんだ…。

そう自分に言い聞かせた…。

 

 

…が、脱走劇はそれで終わりではなかった。

母は父に「チッタが出してくれたお金だから。ちゃんと(北海道に)帰りなさい」と、お金を渡したそうだ。

父は、あろう事か、その金で…。

熱海を満喫しやがった!!

その事を、チッタはまだ知らない。

いつも通りにバイトに行く。

帰宅後はパワプロを楽しんでいる。

数日後、再び携帯からサガ2ラスボスの曲が流れる事になる…。

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