僕には父がいた。
幼い僕を溺愛してくれた父だ。
父は大の酒好きだった。
つまみを口にせず、ただひたすら酒を飲む父。
幼い僕は酒好きという概念も無く、そういうもんだと思っていた。
アルコールは、徐々に父を壊していった。
ほんの少し酒を飲むだけで呂律が回らなくなる様になった。
その状態で5分でも睡眠に入ると、父は豹変した。
夢遊病の様な状態になり、当時の僕はゾンビを見ている様で怖かった。
ところ構わずおしっこをする様になり、足取りはおぼつかず、転んでは怪我をした。
仕事は休みがちになり、僕が小学5年生の頃には毎日家にいる様になった。
酒を飲んでは、叫び暴れるのどんちゃん騒ぎ。
少し寝たかと思えば、出来損ないのアンドロイドの様になった。
僕への溺愛は相変わらずだった。
酒臭い息で、赤子がミルクを欲する様に酒を要求する初老の男に、僕は心底嫌悪感を持った。
兄は無表情で焼酎を台所に流し捨てていた。
その光景を見た父は、完全体フリーザに絶望したベジータの様になっていた。
それが日常化して、更になんやかんやあった頃である。
完全に父を嫌っていた僕は、我が家の熱狂的ライブの短い合間に就寝していた。
不意に目が覚めると、隣には絶望したベジータが座っていた。
惑星ベジータからの急な来客に驚いたが、絶望しているのはいつも通り。
逆に妙な安心感を感じた僕は、ベジータを無視して眠る事にした。
そして彼は、静かに口を開いた…。
「チッタ…。俺はもうダメだ…。」
マジか…。
こいつ、本気で言ってるのか…!?
眠気は吹っ飛び、彼の発言に只々驚いた。
こいつ…まだいけると思っていたのか!?
何をダメだと言っているのかはわからんが、まだ認めていなかったのか!?
「もうダメだ」だと!?みんな思っとるわw
反射的に出た言葉は「オメェまだイケると思ってたんかw」であった。
絶望を三割程増したベジータは静かに去っていった。
おっさんになった今でも、あの言葉は僕の中に大切に仕舞ってある。
「客観性って大事だよね!!」
父は偉大である。
父は子へ、大切な事を教えてくれた。
僕は決して忘れぬ様に、メールアドレスにした。
あれから十数年。
職場でメールアドレスが必要になり、事務所で手続きをした。
事務のお姉さん「えっと…オー…、アール(ネイティブ)…、…?」
チッタ「俺はもうダメだ!です(力一杯)」
お姉さん「えぇ(汗、ダメなの…?」
チッタ「はい!!父が!!(全力)」
トーサン…。
俺、元気だよ…。