任務 前日譚

前回のあらすじ

兄が逮捕された!!

今回は、兄の逮捕までの経緯についてのお話になります。

母から聞いた話なので、把握しきれない部分は僕の推測が入ります。

そんな感じでお願いします。

登場人物

母はスナックを経営していた。

母の店の常連客に、僕が影で「2号」と呼んでいた人がいた。

この「2号」が今回の被害者である。

 

2号は定年退職されたご隠居だ。

母の店に毎日通う太客で、母とはプライベートでも付き合いがあった様だ。

僕も何度か会ったことがあるけど、「シャンとしたお茶目なご老人」な印象だった。

我が家の事情も結構知っているらしい。

兄も2号とは何度も会っていたと聞いた。

序章

事件当日。

客足も悪かった為、母は早めに店を閉めた。

閉店した店内で、母と2号はふたりでお酒を飲んでいた。

 

その頃、兄は精神状態が不安定だったらしく、母への無茶な要求が増えていたらしい。

その事を2号に愚痴っていた。

母はいつも通りの愚痴のつもりだったけど、その日の2号は明らかに態度が変わった。

2号「けしからんな。少しニーちゃんと話しをさせてくれ。」

よせば良いのに…。

母の知り合いには、こんな感じにお節介を焼く人がちょいちょい出てくる。

 

電話するよう頼まれた母は、兄に電話した。

兄と電話が繋がり、2号と代わった。

よせば良いのに…。

 

2号「おう!今、カーさんと飲んでるんだ。良かったらニーちゃんも出ておいでよ!」

こんな感じで兄を誘ったらしい。

しかし、兄は断ったのだろう。

段々と2号の発言が、兄へのお説教へと変わっていった。

よせば良いのに…。

 

当然の事なのだが、兄は自分と母の事で口出しする人間に対して強い敵意を向ける。

兄が何を言ったのかは分からないけど、2号のお説教の口調はどんどん強くなっていったようだ。

よせば良いのに…。

 

電話を切った2号は、頭を抱えたらしい。

その頃から僕は、兄はもうシロウトには手に負えないと考えていた。

何度も入院なりの処置を提案したのだけど、母は了承しなかった。

2号も僕寄りの考えだったけど、母の意向は尊重したい。

しかし、当然2号は兄や僕よりも、母が大事なのだ。

その板挟みに悩んでくれていた様に思う。

もっと怖い目見させてやろうか?

1時間程度経った頃だろう。

母の携帯電話に兄から着信が来た。

「店の外にいるから出て来てくれ」との事だ。

先程の電話の後だ。

さすがの母も罠だと気付いたらしい。

カーさん「絶対に出てはいけない!!」

母は店内での籠城を試みた。

母の店は建物の2階にある。

1階からガラスが割れる様な音がしたらしい。

母と2号は、瞬時に兄の仕業だと察した。

そこで2号がブチギレた。

 

母の静止を振り切って外に出る2号。

追いかける母。

外に出ると、兄の姿は無かった。

何処だ!!と探す2号に、隠れていた兄が襲い掛かった。

不意打ちを喰らった2号は、身を庇う事で精一杯だったらしい。

母は間に入る事も出来ず、ただ「やめて!!」と叫ぶしかなかったと言う。

 

兄が急に距離を取った。

2号の顔は切れ、流血していた。

後日2号に会ったのだけど、顔は腫れ、所々カットした跡が痛々しく残っていた。

兄は手にナニカを巻いていた様だ。

形状を聞くに、沖縄旅行で買った手錠のレプリカだろう。

レプリカとはいえ、材質は金属で、それなりに重量もある。

それを手に巻きつけ、メリケンサックの様に使ったらしい。

兄にとって、自分の倍以上の年齢差の相手だ。

素手でも十分な筈なのに、兄はこんな感じの「頭のネジが飛んだ」行動を取る怖いところがある。

 

兄が距離を取ったのは、自分のカバンを取りに行った為だった。

そのカバンから、「布に包まれたナニカ」を取り出した。

ニーさん「もっと怖い目見させてやろうか…?」

確かにそう言ったらしい。

カッコ良すぎる。

厨二病の僕の心にビンビン届くセリフだ。

 

完全にヤバい状況だと認識した母と2号。

とにかく逃げた。

しかし、兄は追って来なかった。

恐らく、「布に包まれたナニカ」は脅しで持って来たのだろう。

それでも反抗する様なら、迷わず使っていただろうが。

被害届

母と2号は僕に謝ってきた。

兄からの襲撃に対して、警察に被害届を出した事で。

 

これまで兄の起こした流血沙汰は、被害が身内だけで済んでいた。

実際は知らないけど、少なくとも母からすれば、初めて外部に被害が出てしまった。

2号としても、自分が納得出来ないのも有るが、何より、この件をウヤムヤにするのは兄に取っても良くないと考えたと言っていた。

だから、兄から逃げた足で警察署に向かい、被害届を出したと。

2号「チッタの兄弟の事だ。勝手に事を進めて申し訳ないと思っている。」

チッタ「いえいえ全然。

むしろ、そのままウヤムヤにしてたら、引きずってでも被害届出しに行きますよw」

この登場人物の中で、1番まともなのは2号で間違い無いだろう。

 

兄の襲撃から逃げたふたりは警察署へ駆け込んだ。

恐怖で怯えた初老の女性。

顔面血だらけのご老人。

すぐさま事情聴取を受けたらしい。

 

そのまま被害届を出し、兄の逮捕までの段取りを話し合ったらしい。

警察官「分かりました。最後に確認なんですが、お母さんは息子さんの普段の生活を把握していないのですよね?」

カーさん「はい。」

警察官「先程も凶器を所持していた様子ですし…。

息子さん、銃なんて持ってないですよね?」

当時は、「いやいや、まっさかーw」と思って聞いてた。

兄の凶器は、あくまで脅し。

凶器になる物なんていくらでも転がっている。

銃なんてコスパの悪い物を持っている筈がない。

…ないと思う。

ないよね…?

母「分かりません…。」

この一言が決定打となり、兄の逮捕は大掛かりなものになった。

包囲された実家

被害届を出したのが深夜の事。

夜が明け、出勤通勤時間が過ぎた時間に作戦決行となった。

僕の実家の四方は、盾を持った10数名の警察官に囲まれた。

ベランダや窓と言った、逃走経路になりうる場所全てに警察官は配備された。

 

笑ってはいけない状況だ。

金銭で換算すれば、この逮捕劇に幾らの税金が使われたのだろう。

警察官は大マジだ。

兄に対する情報が少な過ぎる。

ましてや、老人相手に凶器を持ち出すヤベー若者だ。

冗談では無く、本気で警戒したんだと思う。

 

警察官は母から受け取った鍵を使い、ドアを開けた。

ドアにはチェーンロックがかけられていた。

間違いなく居る…。

チェーンをゴツいワイヤーカッターで切断し、実家に警察官がなだれ込んだ。

呆気なく兄は逮捕された。

兄は寝ていたらしい。

兄はそのまま連行されて行った…。

このエピソードについて

兄が逮捕された後日。

僕は実家で母と今後について話した。

 

実家に着いて、まず目に入ったのが、無惨に切断されたチェーンロック。

これは中々見る機会が無い。

穴だらけの壁。

これは逮捕の際に出来た穴ではない。

兄の日頃の習慣だ。

 

久々の実家。

その実家は荒れ果てていた。

荒れた居間で、母はとんでもねえ事を言う。

カーさん「被害届。取り下げる事にした。」

本気でバカだと思った。

チッタ「本気でバカだと思うわ。勝手にしろ。もう俺は何も出来ない。」

僕はそう告げた。

まぁ、なんだかんだで、また手を貸すんだけどね。

 

このエピソードは、書くかどうか迷いました。

笑い話にするには不謹慎過ぎる。

2号という、身内以外の被害者も出てるし。

何より、警察、近隣の方に迷惑が掛かりまくっている。

このエピソードを笑い話として紹介すれば、怒る人もいるでしょう。

僕がこのエピソードを書いた理由。

家族のチカラだけでは手に負えないものもある。

これを伝えたかった。

兄は精神疾患を持ち、障害者手帳を持っている。

兄はマジメに治療(?)を受けていなかったらしい。

何度入院を勧めても、母は動いてくれなかった。

そんなウヤムヤな現状維持を目指した結果、事態はドンドン悪くなった。

その結果がこれだ。

 

僕は、兄がどうなっても構わなかった。

だけど、周りに迷惑が掛かるのは避けて欲しかった。

入院が解決になるかは分からない。

しかし、シロウト考えで手を出した結果、警察にお世話になる事態を招いた。

この話の前でも後でも、兄は自殺未遂を繰り返す。

その度に病院や救急に迷惑をかけた。

家族の支えや協力は必要。

これは間違い無い。

しかし、専門知識の無いシロウトだけでは限界があるんだ。

それを伝えたくて記事にしました。

 

家族の連帯責任と考える方もいらっしゃるでしょう。

最後に謝罪で締めようと思います。

ウチのクソ野郎がご迷惑をお掛けして、申し訳ありません!!

身内の愚行を事前に防ぐ事が出来ず、申し訳ありませんでした!!

 

2 COMMENTS

シモケン

いやはや、引き込まれました。
当時笑い話として聞いてたけど、こうやって読み返すと壮絶だな。

老人相手にメリケンでグーパンはヤバすぎだね。もうカッとなったらブレーキかからないんだね。

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titta31@

カッとなって5分10分なら、まだ分かるけどね。
精神疾患を持った人を化け物扱いする気はないけれど、1時間程度経ったのに冷静になれない辺り、かなりの生きにくさを感じるね。

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