狂った金銭感覚

兄の金遣いは荒い。

と、言うか狂っている。

本人の責任でもあるのだけれど、環境が彼を狂わせた部分も多いと思う。

子供時代のお小遣い。

アルバイト収入。

その後の仕事の収入。

順を追って、金銭感覚を学んでいくのが一般的だと思う。

狂った環境で、兄は金銭感覚を学ぶ機会を逃した。

兄は結局、家の壁を殴れば金が降ってくると考える人間になった。

僕はそれを「我が家の金がなる木」と呼んでいる。

幼少期、我が家のお小遣いは年俸制を採用していた。

兄はゲームが大好きである。

まとまったお金を手にした兄は、即座に使う。

ゲームの新作が出れば欲しくなる。

他にも色々とお金が必要な場面があるだろう。

しかし、お小遣いは使い果たした。

一般的にはどうするだろう。

お小遣いの前借り交渉をする。

お手伝いや何かしらの条件を提示して、別途の支給を求める。

諦める。

兄はどの選択もしなかった。

ここで兄は、天才的なビジネスセンスを見せつけた。

兄は、チッタのペナルティを現物化した「ペナルティカード」を作った。

兄は僕に、こう持ち掛けた。

「このカード1枚毎に、お前に罰を与えなければならない。

嫌だろ…?

だから売ってやる!!」

僕に悪魔の取り引きを持ち掛けたのだ。

兄はその頃、ペナルティと称した弟の気に入らない点をメモに取っていた。

ズラリと並ぶ正の字を僕に見せ、僕に罪悪感を抱かせる洗脳をしながら殴っていたのだ。

そして…。

それをビジネスに繋げたのである!!

今にしてみれば、怒りを通り越して感心する。

天才の発想だと思う。

洗脳済みのサンドバッグは、それをおかしいとは思わなかった。

むしろ「お金で解決出来るなら」と喜んでペナルティカードを買った。

こうして兄はひとつの顧客ルートを確保した。

しかしその後、兄のビジネスセンスは更なる成長を遂げる。

兄が大学を中退し、働いていた頃である。

我が家の冷蔵庫にレシートが貼ってある事に僕は気付く。

母に聞いてみたところ、お金の無い母の代わりに立て替えたレシートとの事。

しかし、思いっきり私物である!!

服。まぁ必要っちゃ必要か…。

整髪料、洗顔料。うーん…。ギリ許そう。

ゲーム。アウトォーーーー!!!

私物やんけ!!

完っ全に!私物やんけ!!

しかし、これがまかり通ってしまっていた。

母は兄に甘いのだ。

兄はこのレシートを、母の負債だと言い放った。

やり手の実業家は、金融業に事業を広げた。

そんな事が続き、我が家の支出内容は狂ったものになった。

僕が一人暮らしした後も、それは続き、どんどんエスカレートしていった。

自宅に洗濯機が無かった僕は、実家に洗濯しに通った。

穴の空いた壁にメモが貼ってある。

10万用意しとけ。

やり手の実業家の姿は、そこにはなかった。

なんかもう、雑w

しかし、バリエーションは豊富だった。

ある時は壁に穴が空いていた。

ある時は自分の血で書いたメモが貼ってあった。

ある時は壁に包丁が刺さってた。

どうやら兄は、インテリアデザイナーに転職したようだ。

こうして兄は金がなる木を見つけた。

金がなる木を一心不乱に殴り続けた。

彼はボクサーになったのだ。

そして、金銭感覚を崩壊させた。

だが兄は、実業家でもインテリアデザイナーでもボクサーでもなかった。

教師だった。

兄のスパルタ教育により、僕の金銭感覚は成長を遂げた。

お金の本を読むと出てくるワード。

支出を減らせ。収入を増やせ。投資をしろ。

「支出を減らせ」の説明を読むと、僕は素の状態でそれをやっている。

支出を減らす事に関して、僕は既に習得済みである事に気付く。

お金の本を読む度に思う。

兄は実業家でもインテリアデザイナーでもボクサーでも教師でもない。

ダメ人間になった未来の僕を狂育をする為に来た

そう…。

きっと、未来から来たドラえもんなんだと。

 

 

 

 

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