巧妙な情報操作
僕が高校を辞めてバイトしていた頃だから、17歳辺りの頃の事だろう。
長年住み続けた家から引っ越す事になった。
経済的理由から、もっと安い家に引っ越そうと言う訳だ。
カーさん「雨風凌げれば、それで良い!!」
物件探しの時に、母は1Kの部屋にするだのと、とんでもねぇ事を本気で言い放つ。
チッタ「いくらなんでも、3人で1Kの部屋は無しだろ…」
そう。
3人でね。
カーさん「そっかー。3人ならもう少し広い部屋かー。」
結局2Kの間取りとか、そんな感じのアパートに決まった。
いつも通り
各々が自分の荷造りをし、引っ越しの2、3日前。
新事実が僕に届く。
カーさん「ニーちゃんはひとり暮らしするから。」
あー、そうなの?まぁ、別に良いけど。
考えてみたら、物件探しに兄は口を出さなかった。
あれ?でも、生活費は?ニーさん仕事辞めたよね。また働き出したの?
その頃の僕と兄の関係は、良好とまでは行かないが、まぁ話せる関係にあった。
チッタ「ひとり暮らしするらしいけど、仕事始めるの?」
ニーさん「あぁまぁ、一緒に暮らせなくなったから、家賃光熱費は親が出して、生活費は当分の間は貯金でなんとかなる。」
なにそれズルい。
そんなん俺もしたいわw
いつも通りの母の甘さ。
どうせ兄が無理難題を無理矢理に正当化したんだろう。
まぁ良い、兄が居ないという事は、2Kのアパートを母とふたりで広々使える訳だ。
妥協点としては、まぁまぁ納得が行く。
新しい環境にワクワクしながら引越し作業が進んだ。
新しい家だ。兄も居ない。
きっと、新しい生活は、良い方向へ進んでいく筈。
期待を胸に、僕はバイトへ行った。
何故、キサマが居る?
引越しから数日後。
バイトから帰宅すると、キッチン兼居間に父がいた。
はーぁぁぁぁ…(ため息)。また脱走か…。
カーさん「トーさん、一緒に暮らすから。」
はあぁぁぁぁぁ!?
なんだそれ!!
寝耳に水もいい所だ!!
数日とかじゃなくて、一緒に暮らすってか!?
とにかく状況が理解出来ない。
説明を求めた。
要約すると、父は母(僕の祖母)と暮らすのが嫌になった。
母は「じゃあ、引越し先に来れば?」と、なったらしい。
父と母で勝手に決めた事だった。
この決定は物件探しよりも前に、引っ越す事が決定した辺りで決められた事らしい。
また僕は騙されたのだ。
情報操作は物件探しより前から、既に始まっていた。
確かに「3人で」暮らす部屋を探していたのだ。
「母」「兄」「僕」の3人ではなく、「母」「父」「僕」の3人で暮らす部屋を。
そして母は、兄に対しては「父を含めた4人で暮らさないか?」と、事前交渉をしていた。
兄の言う「一緒に暮らせなくなった」はこう言う事だ。
ニーさん「父が来るなら一緒に暮らせない。だから金を出せ。」
最後に僕への対処。
それは、黙秘。
カーさん「チッタは我慢してくれるでしょ」
つまり、事前に父と暮らす事を僕に話せば、絶対駄々を捏ねる。
先に状況を作っちゃえば、なんとでもなるでしょ。
- 引越しが完了した。
- 父も一緒に暮らします。
- 変更はありません。
この状況にさえ持ち込んでしまえば、チッタなら渋々合意するだろう。
チッタなら、兄とは違って手荒なマネはしないだろう。
母はそう考えた様だ。
はい、ブチ切れましたさ。
また父と一緒に暮らす事も嫌だったが、やり方が汚すぎる。
先に言えばゴネる?当たり前だ!!
一緒に暮らす?冗談じゃない!!
兄には先に話した?ふざけるな!!
父と兄には配慮して、僕には無しか!!
今でこそ分かる気持ち。
当時は「怒り」だと思っていたけど、その時僕は、只々「悲し」かった。
こんなにも雑な扱いを受けるのかと。
チッタ「言い分は分かった。今すぐ彼を追い出すか、俺のアパートをさがs
カーさん「いい加減にしなさい!!」
お ま え が な!!
カーさん「トーさんの気持ちも考えてあげて。」
僕の気持ちは考えてくれましたかね?
カーさん「家族なんだから。」
お前ら離婚したやんけw
家族って何だっけ?
母は言った。「家族なんだから」と。
「これくらい良いの。あなたは気にしないで。家族なんだから。」
何かを与えた側が「家族なんだから」と言えば、それはとても素敵な言葉だと思う。
「これくらい良いじゃない。こっちの事も考えてよ。家族なんだから。」
何かを要求する側の「家族なんだから」と言う言葉。
使い方が違うだけで、こうも醜い言葉になるものなんだなぁ。
母の言う「家族なんだから」は後者だった。
「家族」と言う言葉を盾にする。
弱いフリして盾でこちらをガシガシ殴ってくる。
結局、僕が悪者になる。
我が家でやりたい放題出来る椅子は、既に埋まっているのだ。
我が家の「椅子取りゲーム」では、椅子に座れなかった人間は優等生を演じるしかない。
僕は、優等生でいなくてはいけないのだ。
ツラかった。
ツラい時、「もう、我慢しなくて良いんだよ」と言ってくれるのが家族じゃないのか?
「家族は助け合うもの」って、家庭科の教科書に書いてあったよ?
助けてもらった事あったっけ?無いわ。
じゃあ、家族じゃないのか?でも、カーさんは「家族なんだから」と言う。
家族って何だっけ?
当時の思いを書き殴った「呪いのノート」には、そう書かれていた。
3人での暮らし
結局僕は、父との同居に合意した。
納得はしていなかったけどね。
僕は当時、コンビニのバイトをしていた。
家に居たくなかった為に、空いてるシフトにはガンガン入れてもらった。
しかし、何故だろう。
お金が貯まらない。
それもその筈。
光熱費は僕が払った。これはまぁ良い。
払わなければ僕も困る。
母から度々、お金の催促が入る。
行き先は謎だった。
後で分かる事だけど、兄の携帯料金や、たまには兄の生活費にも使われていた様だ。
僕がバイトから帰宅すると、父が酒を飲んでいる。
そうそう。その酒も俺の金だよね。
美味いか?息子の金で買った酒は。
味わって飲めよ?
僕は、父を無視する方向で進めた。
イキナリだが、僕は焼きたてのトーストにマーガリンを塗って、少し時間が経ってシナったやつ派だ!!
バイトに行く前。
父は僕の好みを把握していたのだろう。
僕好みのトーストを用意してくれていた。
チッタ「んあぁ、ありがと…」
僕はそう言って、トーストしていない食パンを腹に詰めてバイトに向かう。
呂律の回らない父が「チッタ、ピコピコやらせてくれぇ…」と言ってくる。
ピコピコとは、昭和を生き抜いたお父さんお母さんの言う「ゲームの総称」である。
彼らからすると、プレステだろうがSwitchだろうがファミコンだろうが、全てピコピコなのだ。
チッタ「あぁ、酒が抜けたらね…。」(そんな日は来ない)
こうやって、「父」ではなく、「なんかいつも酔っ払ってるオッサン」と同居しているつもりで過ごした。
「息子の食の好みまで把握してくれている、優しいお父さんじゃないか。」
そう思われるかもしれない。
実際、そうだと思う。
しかし、父は昨夜の記憶が一切ない。
一度眠ると、それまでの記憶の完全消去。
このバグは健在だった。
母はスナック経営の為、夜はいない。
僕と父のふたりきりの夜だ。
僕は休日無しでバイトしていた。
モチロン、次の日も朝からバイトだ。
寝たいのだ!!
しかし、毎晩行われるソウルフルなシャウトは僕を寝かせてはくれない。
常に観客を求めているのだ!!
トーさん「ぅらけんじゃれーよぉー!!(ふざけんじゃねーよぉー!!)」
ふざけんじゃねーよ!!
このポンコツ目覚ましが!!何回止めりゃあいいんだよ!!
正確に10分刻みで起動すんじゃねーよ!!
バ イ ト あるんだよ!!
これは毎晩の事だ。
そして、朝になれば、ポンコツは一切忘れている。
あなたは、このポンコツが用意したトーストを食べますか?
あなたが仕事から疲れて帰ってきて、このポンコツがピコピコやらせろと言って、やらせますか?
僕は、それを許せるほど聖人じゃない。
初めは母も「しょうがないよね」と、目をつぶっていた。
母には父に対して罪悪感があるからね。
そんな母も、昔と変わらない父に対して、僕に愚痴を溢すようになった。
お前が招いた結果だろうが…。
そんな事は言えなかった。
僕は「母親」から愛情が欲しかったから。
そして、またいつも通り
そんな暮らしから1年近くか。
僕は18歳になり、夜勤へ手を伸ばし始めた頃だった。
父は再度、北海道へ送り返された。
ようやく母も分かってくれたか。
僕ももう、ギリギリだった。
兄からの暴力から解放され、平穏が訪れた筈だった。
そんな平穏も、父の再来で壊された。
しかも、平穏を破壊するトリガーの酒は、僕が働いたお金で仕入れられる。
何の為に働いているんだろう。
僕が自分で使うお金なんて、自分の携帯料金と、買ったけど乗っていない原付くらいだった。
どんどん心が歪んでいく所だった。
やっと。本当にやっと平穏な日々が過ごせると思った。
カーさん「ニーちゃんがね、ひとりで暮らせないって。それで、部屋が無いでしょ?
チッタ、ひとり暮らししない?」
うん。いつも通りだ!!
要約すると。
- 兄の精神状態がかなり悪い。
- ひとり暮らしの継続は不可能
- 兄と父の共存は不可能
- 父は北海道へ送還
- 部屋が無い
- チッタの追い出し
と、言う流れだ。
しかし、これは悪くない話だ。
僕もひとり暮らしには憧れていた。
しかも、家賃光熱費払ってくれるなら、かなり豪遊出来る!!
チッタ「急だナー。俺もお金ないしナー。困ったナー(チラチラ
でも、「家族の為」だもんね!!
だから、家賃と光熱h
カーさん「チッタは大丈夫だよね」
…うん。いつも通りだ!!
これ改めて読むと酷すぎる話しだね。
当時は俺もガキだったから、話し聞いててもそこまでだったけど、大人になった今改めて読むと胸糞悪くなるな。親御さんにも事情はあるが、家族なんだからって事の説得力のなさと言ったらないね。
アフリカとかで多くある社会問題の、児童労働ですよコレ。
ウチはアフリカだった!?