イチローキャッチ
僕は違和感に敏感だ。
こう言うと厨二臭く聞こえるだろうが、僕の語彙力ではそれが限界。
少し前に僕は衣類を扱う製造業の仕事をしていた。
色んな工程を通って、僕の所に仕事が回ってくる。
自分に与えられた工程をこなすのだけど、回ってきた原物に違和感を感じる事があった。
他の原物とは何かが違う。
そう感じると、大体に作業漏れがある。
僕は、他の工程の人の作業漏れの発見率が異常に高かった。
違和感があるけど、作業漏れも無い。
何が違うんだ?と観察した結果、布地の向きがオカシくなってる不良品を発見した時。
100枚単位で積み重ねられたうちの数枚の作業漏れを発見した時。
上司からはドン引きされ、「病気だ」と最上級の称賛を浴びたものだ。
この「違和感に気付くスキル」は製造業において、かなり重宝した。
作業漏れに気付かれないまま工程が進み、製品チェックの工程で発見された場合、これがまたメンドクサイ。
僕の工程で発見するよりも、何倍も処理に時間がかかる。
メジャーリーグで活躍したイチロー選手。
「取れなければホームラン」といった打球をスタンドギリギリでキャッチする「イチローキャッチ」
僕の作業漏れの発見は、イチローキャッチと呼ばれた。
しかし、このスキルは、生まれつきでもなければ自ら得ようと思って得たものではない。
環境から得ざるを得なかったスキルなのだ!!
環境から得たスキル
僕は小学生から中学生初期までの間、兄からの日常的な暴力を受けていた。
ただ殴られるのは痛いので、悪足掻きとして兄を観察した。
兄が僕に、精神的虐待をしたいのか、身体的虐待をしたいのかを見極め、リスクヘッジしていた。
失敗=死。とまではいかなかったが、見極めをしくじると多大な痛手になる。
ギリギリの環境での観察。
神経をすり減らす毎日。
神経が強張って、熟睡する事が出来なくなる程だった。
朝顔の観察日記で得る観察力よりも、桁違いに高い観察力を身に付けた。
しかし、観察力は言わばステータスである。
痛みから学んでいき、数値を上げたステータス。
それは、スキルへと派生した!!
危機一髪
僕が小学4年生の頃、兄は中学2年生の頃だ。
忘れもしない。
だって、死にかけたからね!!
僕は学校から帰宅した。
朝の兄の様子からすると、まぁまぁ大丈夫な日。
今日は軽めの仕事になるだろう。
「さ、て、と、…軽く殴られますか!」
かなり油断していたのを覚えてる。
しかし、何かがオカシイ…。
何がオカシイのかは分からないが、とにかくオカシイ…。
ガンダムで言う、ニュータイプの「キュピーーーン!!」ってやつ。
あれが来た。
ヤバい!!今日はマズイ日だ!!
逃げよう!!!!
逃げようとした瞬間、何かが凄い勢いで飛んで来た。
兄のカバンだった。
教科書なんかがパンパンに詰まった…。
マジで危機一髪!!
顔面目掛けて飛んで来た砲弾をギリギリで受け流し、速攻で外へ逃げた。
初めから逃走姿勢を取っていたおかげで、なんとか命は助かった。
受け流した際に犠牲にした腕は腫れ上がっていた。
両親の帰宅を見計らい帰宅してみると、砲弾の先はかなりの惨状だった。
これが顔に当たってたら…。
悲しいスキル
兄はその惨状を、「ムシャクシャしてぶん投げた」と両親に説明した様だ。
モチロン僕に向かって投げた事は隠して。
両親は納得した。
パパ、ママ、何か気付かない!?
この惨状と、アンタらより遅く帰って来た小学生4年生。
結び付かない!?
もっと観察力養って!!
あの瞬間感じた違和感。
あの時は何に違和感を感じたのか、全く分からなかった。
後にして考えてみると、その違和感は物の位置だった。
兄の靴はある。なのに兄のカバンがない。
じゃあ兄はどこ?
兄は変な所で几帳面だ。
カバンをどこかへ放り投げる様なマネはしない。
初めての光景。
我が家の初めての光景はロクな事がない。
それを違和感として感じ取ったらしい。
普段そこには無い椅子。普段は仕舞ってある木製バット。兄の靴はあるのに、あるべき場所に無いカバン。
後から気付いて更にゾッとした。
凶器じゃん!!
メッチャ凶器転がってるじゃん!!
意識に残らない様な情報のカス。
情報カスを無意識に結び付け、常に最悪を想定してしまう思考。
それらを見落とすまいと張り詰めさせた神経。
そこから導き出される違和感。
なんて悲しいスキルだろうか。
しかし、このスキルが無ければ、僕はあの家で五体満足ではいられなかっただろう。
生き残る為のスキル。
今ではそんな張り詰めた日常とは無縁の生活を送っている。
しかし、身に付いた「違和感に気付く」スキルは健在だ。
今の日常では、仕事には役立ってるなってレベルのもの。
だが忘れてはいけない。
兄は未来から来たドラえもんなのだ!!
ドラえもんが習得させてくれたスキルだ。
必ず意味がある!!
きっと、未来の僕は「違和感に気付く」スキルを持たない為に、悲惨な状況になったのだ。
それを回避する為に。
「悲しいスキル」ではなく「僕を救ったスキル」
そう言える日が来たら言おう。
ありがとう、ニーさん…。