僕は腕が2本生えている。
足も2本生えている。
腕と足、それぞれに指が5本ずつ生えている。
この世に生を受けた日から、僕にとってはそれらが当たり前の世界だ。
僕にとっての当たり前の世界は、他にも多数存在した。
その中のひとつに、肥満という要素があった。
5000グラムという恵まれた体格で産まれた僕は、タプタプと育っていった。
小学校の健康診断では、6年間通して肥満判定をコンプリート。
家族からは、力士、百貫デブ、チャーシューと呼ばれていた。
言葉の意味はイマイチ理解していなかったが、家族からの期待だけは感じていた。
肥満である事にコンプレックスは無かった。
痩せている自分というものを知らない僕に、コンプレックス云々言うことはナンセンスであった。
自分が肥満である事は、僕にとっては当たり前の世界だったのだ。
幼少期の僕は、究極レベルで事故中心に、自分の世界の中で生きていた様に思う。
そんな僕は、順調にスコアを伸ばしながら中学生になった。
その頃、僕は衝撃的な事実を知った。
人は痩せられるのだ。
ダイエットという言葉は知っていた。
しかしそれは都市伝説か何かだと思っていた。
僕はずっとチャーシューなのだ。
それが当たり前の世界なのだ。
考えるまでもなく、無意識レベルでそう信じきっていた。
ある日のこと。
どうやらダイエットの話しはマジ話しらしい事を、「言葉」でなく「心」で理解出来た瞬間があった。
「地球が平面ではない」という程の衝撃だった。
「痩せた僕」は、「翼の生えたあなた」
それくらいに未知であり、想像が出来ない世界だった。
それを努力次第で作れるというのだ。
「痩せた俺って面白くね?」
それだけが原動力だった。
その日から、ひたすら走った。
インターネットが一般的に普及していなかった頃だ。
図書館に通い、「発掘あるある大事典」は欠かさずに観た。
ダイエット効果とあれば、出来る事は何でもした。
無茶な事もした。
吐きそうになりながらも走った。
立った状態で足元を見る。
以前までの光景は、自分のたわわなおっぱいだけだった。
それが、お腹が見える様になり、足が見える様になった。
当たり前の世界が変わっていった。
それが楽しくて仕方がなかった。
優しい兄は、ケーキやアイスを買ってくれた。
チッタ「今、ダイエットしてるかr」
兄「食え!!」
兄の声援を受ながら、必死で走った。
当たり前の世界を変える為に走りまくった!!
その甲斐あって、中学2年生の頃には標準体重にまで落ちた。
モテたいとか、認められたいといった外的理由はなかった。
当たり前の世界を変えてみたくて、好奇心だけの内的理由で成功させたダイエット。
この経験は大きな自信になった。
そして、今年の健康診断。
身長164センチ 体重65キロ
D判定を頂いた。