兄と僕は、従属関係にあった。
兄に対する恐怖心から、兄に逆らえず、最後には自分の気持ちを勘違いするまでになった。
そんな僕は、一度だけ兄を病院送りにした事がある。
今回はそんな話しです。
注意点です!!
「パニック」の項で、僕がパニックに陥った話があります。
苦手だったり、気分を害する恐れのある方は観覧に注意、又は中止するなどをお願いします!!
従属関係
幼少期から少年期の頃、僕にとって兄は神の様な存在だった。
幼年期は「逆らってはいけない」存在。
少年期になってからは「逆らう事ができない」存在。
幼年期の頃は、「自分が正しい!ニーちゃんがオカシイ!」と感じれば、それなりに反抗した。
そんな僕を兄は、精神的な方法、肉体的な方法で洗脳していく。
ゆっくりと、丁寧に。
少年期の頃には「お金払えば殴らない!?やったー!払う払う!ありがとう!!え?それでも殴る?あ、ハイ。ソウデスヨネ…。」と、思考を停止した奴隷に育て上げられた。
「反抗しない」とか、「反抗出来ない」ではないのだ。
反抗と言う「意志」自体を消されたのだ。
初めは自分の意思で兄に従っていた。
しかし、習慣とは恐ろしいもの。
初めは自分の意思で従っていた筈なのに、いつの間にか自分の意志は無くなっていった。
兄からの無理難題な命令に、反射的に従う様になってしまったのだ。
兄との間に出来上がった従属関係に取り込まれた僕は、反抗するという考えすらも無くなった。
従属関係にドップリ浸かった僕は、率先して兄のご機嫌を取る様になった。
初めは「兄の機嫌が良ければ、受ける被害が少なくなる。」と考えていた。
それがいつの間にか、兄のご機嫌を取る事自体に喜びを感じる様になっていった。
この喜びは、思考回路のバグなのだけど、それをオカシイとは思わなかった。
これが従属関係の怖い所である。
チッタの異変
僕が中学生になった頃。
何を思ったのか、急に身体を鍛え始めた。
暇さえ有れば、外へ走りに行く。
汗だくで帰ってきたと思えば、なんか部屋で「フン!フン!!」言ってる。
僕からすればダイエットをしていただけなのだけど、兄には身体を鍛えて始めた様に見えていたらしい。
兄は危機を感じたらしい。
僕と兄は、3歳離れている。
兄は早生まれなので、学年で言えば4つ違う。
大人になってしまえば、その差は微々たるもの。
しかし、子供にとっては大きな差だ。
中学1年生と小学3年生。
中1の兄が小3の弟に力で負ける事は粗無いだろう。
高校1年生と中学1年生。
徐々に兄弟の体格差は縮まっていく。
しかも、弟は身体を鍛え始めた。(様に見える)
兄は焦りを感じたんだと思う。
少し前は、弟を力でねじ伏せられた。
しかし、今の弟が反撃してきたら?まだ、ねじ伏せる事は出来るが、無傷では済まないかもしれない。
兄がそう考えたのだと、僕は推測している。
その頃から、兄は脅し目的で凶器を使い始めた。
僕は最初から、反撃する気も抵抗する気も無いのだが。
兄は僕の奴隷根性を再教育したかったのだろう。
僕が殴られる時、「気を付け」の姿勢が基本姿勢だ。
何発か殴られると、痛みで疼くまる。
そこから僕は自分で起立し、「気を付け」姿勢に戻り、また殴られる。
兄はこのタイミングで、凶器での脅しを取り入れた。
疼くまる→起立→「気を付け」
この一連の動作の速度が格段に上がった。
下半身の良いトレーニングになった。
実は、僕は殴られる時に、マジ7割演技3割という小細工を仕込んでいた。
それがバレた。
ニーさん「余裕そうだな…」
妨害
兄は僕に「成功」して欲しくなかったんだと思う。
兄からすれば、思考を停止した奴隷に、「成功体験」なんてポジティブなものは邪魔でしかないのだろう。
息をする様にダイエットの妨害に出た。
僕はダイエットの為に、就寝4時間前から食品を口にしないと言う掟を立てていた。(唐辛子カプセルはノーカンです)
とても優しい兄は、毎日ではないが夜食を用意してくれた。
僕の為にケーキやシュークリームなんかを買って来てくれた。
正直言えば、食べたくない。
その頃僕は、お菓子の類を絶っていた。
しかし、優しい兄様からの差し入れだ。
食べない訳にはいかない。
返事は「はい」か「yes」だ!!
とは言うが、僕には返事を返す事すら許されていない。
その優しさ、1年前に欲しかったなぁ…。
食べた分の睡眠時間をズラし、また走りに出た。
買って来たお菓子はまだ良い。
問題は兄の手料理と言う悪ふざけだ!!
シェフの遊び心。
あれは、培った技術と経験に、ほんの1割遊び心を加える事で成立する。
兄の場合、培った技術も無ければ経験も無い。ついでに言えば愛情も無い。
悪意10割と、遊び心2割だ!!
きゅうりの素揚げ〜サラダオイルソース仕立て(サラダ油10割)〜なんてのはマシな方だ。
普通に生肉とか出てくる。
「調味料を食材だと勘違いしてるんじゃないか?」って位、ザラザラした何かが出てくる事もあった。
兄の料理は、食材に対する冒涜でしかなかった。
僕は、お手製の唐辛子カプセルで胃を荒らしていた事もあって、嘔吐を繰り返す日々だった。
ある意味では、とても頼りになるトレーナーだった。
そのトレーナーのお陰で、(色んな意味で)僕のダイエットは加速した。
恐怖というデバフ
頭と体に染み込んだ「恐怖」と言うものは、強力なデバフ効果を生む。
脳はヤラレ、「反抗する」と言う意志自体が削がれる。
恐怖の対象を前にすると、体がすくみ、運動能力が低下する。
月日は流れ、僕と兄の体格差は殆ど無くなった。
寧ろ、僕の方が少し背が高くなった。
チカラも僕の方があったかもしれない。
その頃になると、兄からの理不尽な暴力は激減した。
理由は色々だけど、兄の精神状態が安定していたのが大きな理由だろう。
それでも、稀に理不尽な暴力が出る事があった。
やはり、僕は反抗出来ない。
身体能力だけで見れば、10戦すれば勝ち越すチャンスはあったかもしれない。
兄が凶器を持ち出す恐怖、僕が幼い頃から植え付けられた恐怖。
恐怖によって、反抗すると言う考えも湧かない。
仮に反抗出来たとしても、恐怖のデバフの効果で全敗しただろう。
僕が20代後半の頃、僕と似た様な従属関係の2人組がいた。
年配のAサン、20代前半のBサン。
Aサンは華奢な年配だったし、Bサンはそこそこ体格が良い若者だ。
本気の殴り合いになれば、Bサンが勝つだろう。
しかし、BサンはAサンには絶対に逆らう事は無かった。
僕はBサンの「逆らう事が出来ない気持ち」がよく分かった。
そんなBサンを見た、若い子が言った。
「なんでBサンは、Aサンにやり返さないんだろう?簡単に勝てるでしょ?」
「恐怖」と言うデバフを受けた事のない人の感想なんて、そんなものだろう。
下克上
僕が高校1年生、兄は大学生なのか中退したんだかの時期の話。
ニーさん「エアコンのリモコンが無い。探せ。」
この手の命令が出た場合、兄の動きで大体結果が見える。
兄がやたらと「探す場所」を指示する場合は、兄が隠し持っている。
別の部屋を探そうとする僕を「どこへ行く?まだ探し終わってない」と止めれば、別の部屋に隠してある。
つまりは、「見つかる筈の無い物」を「見つけられなかった」僕に罰を与えたいだけなのだ。
いつもなら、兄が満足する様に探し、出された罰は甘んじて受けていた。
しかし、その日は違った。
その日の僕は虫の居所が悪かった。
その頃は理不尽な暴力が激減した為に、ほんの少しばかり恐怖デバフが薄れていたのかもしれない。
「こんな茶番は時間の無駄だ!さっさと殴って終わらせろ!!」と言わんばかりに、乱雑に探し始めた。
無意識に反抗的な態度を取ったとしか思えない。
その行動は、今思い返しても不思議に思う。
乱暴に兄の布団を剥ぎ取った瞬間、兄が組み付いて来た。
ニーさん「なんだ…?その態度は…。」
兄自身、僕の反抗的な態度に驚いたのかもしれない。
僕を後ろから殴るなり、足蹴にすれば良かった筈。
知識の無い関節技を僕にキメようとしていた様だった。
これは兄にとって、かなりの悪手だった。
僕は強引に兄の組付を外し、至近距離から兄の腹に前蹴りを叩き込んだ!!
んじゃないかなと思う。
この辺は断片的にしか記憶がない。
とにかく、兄は吹っ飛んで行った。
疼くまる兄。
それはまるで、栽培マンにヤラレたヤムチャの姿だった。
実に無様だ。
「俺は今まで、こんな奴に良いようにされてたのか…。」
無意識下に押し込められた恨み。
復讐ってのは気持ち良いんだな…。
実に晴れ晴れした気分だ!!
サイコーの気分だ!!
なんて事は、一切思わなかった。
パニック
兄を吹っ飛ばした後、僕の頭の中はこうだ!!
………………。
……………………………。
やってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまったやってしまった。
「この後どうする?」「何をされる?」「なんでこんな事した?」
そんな事を考える余裕はなかった。
思考そのものが吹き飛ぶ。
あるのは「恐怖」の感情だけ。
「とにかく何があっても絶対にしてはいけない事を、たった今、やった。」
その事実を反復する事しか出来なかった。
完全にパニックに陥っていた。
この辺の記憶は本当に薄い。
兄に馬乗りになって、ひたすらコブシを叩き込んでいた。
これは、僕の生存本能だったとしか思えない。
ほんの少しだけ冷静になった所で、「恐怖」が「感情」から「思考」に登って来た。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!!!!
僅かに働き出した思考は、「最悪」しか予測しない。
完全に恐怖のみで埋まった頭だった。
しかし、それを凌駕する生存本能が僕を動かした。
心臓がはち切れんばかりに走った。
絶対に兄に捕まる事の無い距離まで逃げたであろうが、足は止まらなかった。
帰宅
ようやく頭が働く様になって来た。
頭が働いた所で、破滅的な結末しか思い浮かばない…。
甘ったれた高校生の僕が、この身ひとつで生きていくビジョンも浮かばない。
どうしたものか…。
家にはもう帰れない。
帰れば、今度こそ、僕は殺されるだろう。
絶望しかなかった。
家に帰らなくても死。家に帰っても死。
頭がオカシクなっていた。
考え続けた先で、母に頼る事にした。
母に頼るしかなかった。
慎重に、人生の中で、最も慎重に我が家の様子を伺う。
兄との鉢合わせは、死しか思い浮かばない。
いつでも逃げられる様に、慎重に…。
僕の気持ちとは裏腹に、あっさりと母に会えた。
僕を見るなり、母は号泣した。
あの日、母が帰宅すると、ボコボコに顔が腫れ上がった兄が横たわっていた。
すぐさま病院へ搬送。
幸い、入院はしなくて済んだ様だった。
兄は何も言わないらしい。
しかし、状況から察するに、兄の負傷はチッタがやった事と推測したらしい。(正解!!)
カーさん「チッタまでこうなっちゃって、どうするのよおおぉぉぉーー!!!!」
心のどこかで分かっていた結果だった。
それでも、心のどこかで、僕を気遣ってくれる「母親」を期待していた。
カーさんは僕を気遣うのではなく、僕を責めた。
我が家の優等生ではなくなったチッタを責めたのだ。
母のこの反応は、僕の心を深く傷付けた。
兄の変化
結果から言うと、あの日以来、兄は変わった。
僕に対する理不尽な暴力は無くなった。
僕を傷付ける様な発言、態度も無くなった。
兄の心境がどう変化したのかは知らないけど、やたらと友好的に接して来る様になった。
モチロン、初めは僕も警戒した。
しかし、徐々に警戒を解いていった。
兄が友好的に接してくる事に、僕も嬉しかったんだ。
その時の気持ちに気付いたのは、もっと先の話だけど。
それからの僕と兄との関係は劇的に変わった。
「僕と兄」との関係で言えば、問題は解決したかの様に見えた。
でもそれは、表面的なもの。
「下克上」なんて大層なタイトルにしたが、あんなもんは不可抗力だ。
表面的には力関係が変わったかもしれない。
しかし、僕自身の心理的な問題で言えば、僕は兄からの呪縛に囚われている奴隷のままだった。
最後に
このエピソードは、僕にとって、とても重要なエピソード。
道徳的に見れば、僕の取った行動は誉められたものじゃない。
だけど、あの行動のお陰で、少なくとも日常的な暴力からは解放された。
あの行動を取らなかった世界線の事は分からない。
へらへら生きてるかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
まぁ、今へらへら生きてるし、あの行動を取って良かったんじゃないかな?って勝手に思ってる。
無意識の行動だけどw
兄との関係が変わって、当時は兄との問題は解決したもんだと思ってた。
実際の所は、解決してなかったし、解決していない事にも気付いていなかった。
20代の頃までに感じていた「生きにくさ」に繋がるんだけど、その問題の事もいずれ書こうと思います。
思い入れのあるエピソードだったので、長くなってしまいました。
読んで下さった方、ありがとうございます!!
また来てね!!
兄の虐待方法ヤバいな。ここまで凄惨だったとは初めて知ったわ。兄には悪いがクソだな。読んでて胸糞悪くなったよ。当時気づけずすまぬ。
奇遇だね。俺も当時は気付いていなかったよ。
殴られてる事は話したかもだけど、自分自身が凄惨だと気付いてなかったからね。
伝わる訳がないし、誰かが気付ける訳がないわな。
心が読める超能力だって、気付けなかったんじゃない?
虐待の発見が難しいのって、こう言う事情もあるのかなって思う。
母も兄からの暴力には気付いてなかったと言ってた。
まぁ、嘘だろうなと思ってたけど、改めて思い返して見ると、あながち嘘ではないのかなって思う今日この頃。