僕が中学生だった頃だろうか。
当時、父は働いていなかった。
母は家計を支える為に、スナックを経営していた。
その為、夕方から朝方まで家を空けていた。
その頃の夜は、父、兄、僕の3人だけになっていた。
予備動作
父はアルコール依存症である。
俗っぽい言い方だけど、「アル中」という言葉の方がイメージとして合っていた。
父は、酒を飲む→騒ぎ暴れる→寝る→夢遊病。
と、2段階の変身能力を持つ。
その日、僕は我が家で開催されるナイトフェスの休憩時間に仮眠を取っていた。
家庭の事情で熟睡出来ない体になっていた僕は、深夜に目を覚ました。
台所で水を飲んでいると、暗闇の中にあぐらをかいた父を見つけた。
嫌な予感がする…。
静かすぎるのだ。
酒も飲まず、ただ座ってるだけ。
初めて見る光景だ。
寝てるのか?それともゾンビモードか?
どちらにせよ、ロクな事にならない。
前例の無い対処は難しいのだ。
暗闇に目が慣れ、父の姿が鮮明に見えてくる。
揺れ…てるかな…?
こりゃあ寝てるな。と安堵したが、父の周りには椅子やらテーブルやらが置いてある。
このまま倒れたら危ないかも…。
父が怪我しても良かったが、僕の目の届く範囲ではして欲しくなかった。
仕方なく声をかける。
チッタ「なぁ、寝るならちゃんt
僕が言い切る前に、父はあぐらをかいたままぶっ倒れた。
渾身のヘッドバッド
椅子でもテーブルでもない。
1番厄介な水槽に頭を叩きつけた!!
我が家の居間には、大きな水槽があった。
多分、縦60センチ横120センチくらいだろうか。
アニメ「けいおん!」を観たことのある人なら、トンちゃんの水槽を想像して欲しい。
まぁ、結構大きい水槽に金魚を飼っていた訳だ。
水がナミナミに入った水槽に、父は渾身のヘッドバッドを叩き込んだ。
水槽は、頭が丁度入る円形の穴が空いた。
モチロン、父の頭は水槽の中だ!!
おそらく父は、水責めの拷問を受けている夢を見た事だろう。
ナミナミに水の入った水槽に穴が空いた。
当然、穴から水が放出される事になる。
まるでダムの決壊映像の様だ。
父の頭は水圧に押し負け「スポーーン」と飛び出してきた。
横たわる父は、まるでダチョウ倶楽部であった。
初期化
見事なまでの惨状。
居間はビッチャビチャになっていた。
正直「あ、死んだな」って思った。
慌てて兄を呼びに行った。
兄「うるせえ!!殺すぞ!!」
就寝中の兄様を起こすなんて、やっちゃあダメだよね!!
反省反省。
遺体の確認の為に、捜査官は現場検証に入った。
しかし、父は割れた水槽で切る事もなく、無傷だった。
目を覚ました父は、水責めが効いたのか1番まともなモードで再起動されていた。
大穴の空いた水槽。ビッチャビチャな居間。
状況の読めない父は軽いパニックになっていた。
父は再起動すると、その前の記憶を一切忘れる。
これがまたタチが悪い。
どれだけ部屋を荒らそうが、どれだけ暴言吐こうが一切忘れる。
再起動の度に初期化されるバグを持つ為、どれだけ説明しても理解してくれない。
この惨状を作ったのは誰だ!?
トーさん「ニーちゃんがやったのか!?」
お ま え だよ!!
どうせ説明しても理解してくれない。
それよりも、この惨状をなんとかしなきゃ…。
父は邪魔だったので、僕の寝床に寝かした。
拭いても拭いても終わりの見えない作業。
あー、もうこりゃあ寝れないなぁ…。
作業に集中出来れば、まだ良かった。
しかし、再起動したポンコツは30分おきに邪魔しに来た。
トーさん「どうした!?誰がやった!?」
チッタ「良いから、寝てて…」
30分後
トーさん「何があった!!またニーちゃんか!?」
チッタ「あぁもう、そこ、危ないから…」
30分後
トーさん「なんd
チッタ「ハウスッ!!!!!」
やがて、夜が明けて
30分おきのポンコツの来訪が収まった頃、窓の外は薄っすらと青みがかってきた。
もうすぐ朝か…。全然終んねえよ…。
水槽を見ると、底に溜まった水の中で金魚達が狭そうにしていた。
ごめんなぁ…。
終わりの見えない作業をしていると、兄が現れた。
惨状を観察し、大体を理解したのだろう。
一言だけ残して去って行った。
ニーさん「金魚、殺すなよ」
流石はニーさん。生き物には優しいなぁ。
最高にクールだぜ!!
作業が7割がた終わった頃だろうか。
母が帰宅した。
仕事明けの母に頼むのは申し訳ないが、残りを任せて学校に行く支度をしよう。
チッタ「カーさん、悪いんだけd
カーさん「どうしたの!?またニーちゃん!?」
あんたもか…。
僕の心境とは裏腹に、外は清々しい朝だった。
おもしろい!あの惨状をきれいにまとめたねw
初期化され30分毎に現れる父に笑い。アル中ってこんな感じなんだ〜ってのが分かりやすく伝わってくるよ。
お父さんは、渦中に現在の自分の頭がビショビショに濡れている事に違和感は抱かないのかね?それも気づけないくらい泥酔ってことだよね?
聞いてはいたけど、文章として読むと違った面白さがあるね。どんどん書いてくれ。
泥酔ってより、弱いパニック(?)が継続してた印象かな?
ニーさんに寝込み襲われる事も珍しくなかったし、「ニーちゃんがやったのか!?」ってなるのも分かる。
だけど、毎度毎度、俺との会話すら悪れて邪魔しに来られるのはマジで厄介だったw
楽しんでくれて嬉しいよ。
嬉しいです!!
頑張って晒していくよ!!