僕が30代になったばかりの頃だったか。
その頃にはもう、母や兄とは年単位で連絡を取っていなかった。
極々稀に、母から兄についての泣き言の電話があったけど、「僕みたいなシロウトではなく、専門家に相談しろ」というスタンスを取っていた。
そんな頃に起きた事件のお話。
登場人物
その頃の母はスナック経営を辞めて、どこかでパートをしていた。
母の依存対象も、「2号」から「パート先の先輩婆ちゃん」に移ったらしい。
「パート先の先輩婆ちゃん」を、仮に「パイセン」とでも名付けよう。
このパイセンが今回、話をややこしくする。
初手、説教。
僕はこのパイセンに会った事が無い。
「母より年上なんだから、お婆ちゃんなんでしょう」って程度の認識。
一度だけ電話で話した事がある。
珍しく母から着信があり、電話に出てみると、まぁいつもの泣き言だ。
兄は、「金を用意できなかったら親戚の所へ向かう」らしい。
「もう無理だ」「どうしたら良いか分からない。
そんな泣き言を僕に言う。
僕の意見なんざ聞き入れない癖によく言うわ。
110番という、警察につながる魔法の番号を教えて僕は電話を切った。
1時間かそこらだろうか。
再び母から電話が来た。
…妙に電話口がガヤガヤしているな。
チッタ「ひょっとして、居酒屋かなんかにいます?」
まぁ、居酒屋にいた訳ですわw
モチロン、兄の件が解決した祝杯なんかじゃない。
兄の担当医にも、警察にも相談している訳もない。
問題を放置して、とりあえず居酒屋に行った様だw
兄からの脅迫じみた要求に、母は困り果てた。
頼みの綱であるチッタは役に立たない。
困った母はパイセンに相談。
パイセンは「じゃあ、飲みに行こう!」と、なった訳だ。
正気の沙汰じゃないと思ったw
なんかもう、あー、もう、なんか、もう…。
メンドくせっ!!
電話口もガヤガヤ言ってるし、「もういいや、切ろう」ってなった。
カーさん「パイセンがチッタと話したいって」
ほほぅ?
この「パイセン」に、僕は少し興味が湧いた。
僕は経験上、「今回の兄の件」は放っておいても大事にはならないだろうと踏んでいた。
しかし、当事者の母はそうはいかない。
最初の電話口では切羽詰まっていた感じだったし、疲弊した印象を持った。
その母を、「とりあえず飲みに連れ出す」パイセンの思考はイカホドのものなんだろう。
興味本位でパイセンに電話を代わってもらった。
パイセン「ろうおもっれるんれすか!?」
パイセンはガッツリ出来上がっていた。
「はじめまして」とかの挨拶も無かった。
マジで第一声がこれだった。
チッタ「はじめまして。息子です。母がお世話になっております。
失礼ですが、質問が漠然とし過ぎています。もう少し的を絞って下さい。」
パイセン「お母さんが困っているのに何もしてあげないなんて、可哀想じゃないですか!!」
読みやすい様に翻訳したが、呂律は回っていなかった。
そして、熱い説教が始まった。
母は「現在の」我が家の事情はパイセンに話してある様だった。
パイセンの頭の中では
- 母=大変な息子を持ちながら、頑張っている可哀想な友人
- 兄=友人(母)を苦しめるとんでもねえ輩
- チッタ=可哀想な友人(母)を助けない薄情な息子
といった所だろう。
間違っていない。
と言うか、結構情報が正しく伝わっている様で感心した。
ただ、「過程」がスッポリと抜けていた。
この際、兄が、何故こうなってしまったかはどうでも良い。(僕にとっては)
何故、もうひとりの息子(チッタ)は協力的ではない薄情な息子になったのか。
そこを考えないものかねぇ。
パイセンの言い分はこうだ。
- 可哀想な母を助けなさい。
- あなた(チッタ)はまともそうだから、あなたが動きなさい。
この2点を伝えるために、30分程度かけて説明してくれた。
パイセンの友人を想う気持ちは本物だろう。
母を想う気持ちには息子として感謝する。
感謝の意を込めて、これらを穏やかな口調で伝えた。
- 僕が本気で状況を打開しようと動いた際、母は邪魔をした。
- 母と僕とでは、目指す「解決」が異なっている。
- 「その場しのぎ」に手を貸すつもりは無い。
- 今の母に必要なものは、居酒屋以外にあるのではなくって?
- 人に説教垂れたいなら、シラフで出直して下さい。
パイセン「まぁ、母は甘い所があるからねぇ…。」
話の分かる相手で良かった。
パイセンとのやり取りは、これが最初で最後だった。
パイセンの熱い説教から数ヶ月経った頃だった。
また母から連絡入った。
前回とは別件の連絡。
また兄がやらかした。
タップダンサー
その日、母はパイセンの家で飲んでたらしい。
パイセンとふたり、仕事の愚痴なんかを話していたんだと。
愚痴を言うテンションになると、母はどうしても兄の愚痴へと話がシフトする。
前回の兄の件は、あれから特に行動を起こさないままでウヤムヤに出来た様だ。
「ウヤムヤに出来た」だけだ。
奴はいつだって無理難題をふっかける。
母は最早、酒飲んで愚痴る事しか出来ない様だ。
どうやらパイセンは説教癖があるらしい。
母の愚痴を聞いたパイセンは「お前の息子(兄)、けしからんな。話しをさせろ。」と、兄に電話する事を要求した。
基本的に、僕の家族は過去から学ばない。
「2号襲撃事件」と同じ様に、母は電話でパイセンと兄に話しをさせた。
パイセン「おう!今、カーさんと飲んでるんだ。ニーちゃんも良かったらおいでよ!」
なんと、兄はそれに応じた。
これには僕も驚いた。
とにかく兄は、パイセンの家にやって来た。
母、パイセン、兄の3人は楽しく飲んでいたらしい。
しかし、事はそう都合良くはいかない。
良い感じに酒が回ったパイセンのハンドル操作がアヤシクなっていった。
徐々に話は「カーさん、頑張ってるよ?」から「ニーちゃんもカーさんを助けてあげて?」
最後には、母に対する兄の日頃の行いへの説教に発展した。
兄は黙って聞いていたらしい。
当然の事なのだが、兄は自分と母の事で口出しする人間に対して強い敵意を向ける。
頼む、カーさん。
地雷平原で踊り狂うタップダンサーを止めてくれ!!
いつもの
兄は気分を害したらしく、「帰る」と言い残し、外へ出て行った。
僕はそこで母に「何故パイセンを止めなかった?」と聞いた。
どうやら母はパイセンにお金を借りていたらしく、パイセンに対して強く出れないとの事。
借りる相手を考えてくれ。
部屋に残った母とパイセン。
母は、「不安定になったであろう兄」の存在に頭を抱えながらもパイセンを責める事が出来ない。
パイセンの顔は、どこか満足気だったらしい。
数十分後、母の電話に兄からの着信が入る。
ニーさん「少し話したい。外へ出てくれ。」
嫌な予感しかしないのだが、フォロー出来るタイミングだと踏んだ母は、外で兄と話した。
兄の言い分としては、「他人にふたり(兄と母)の事を話し過ぎだ。」と言うもの。
当時の僕は、「日頃から悪どい事をしておいて、他人に話されたら被害者ヅラですかw」と思った。
しかし、今となって思い返すと、兄には兄なりの言い分があっての普段の行いなのだ。
兄の目線に立って考えれば、「母と兄の問題」に、兄の言い分を知らないパイセンからの説教は、お門違いもいい所である。
兄の行いが許されるかは別問題だけど。
話が脱線しました。
話を母と兄の対峙のところに戻します。
母のフォローも虚しく、兄は徐々にヒートアップしていった。
口調も荒くなり、見るからに感情のコントロールが効かなくなっていったらしい。
母は「いつものマズイやつだ」と感じたと言う。
母は急いでパイセンの家に戻り、厳重に施錠した。
籠城を決め込むことにしたんですって。
- 説教になるであろう状況に兄を呼び込む。
- 兄は気分を害する。
- 兄が暴走する。
もう、テンプレw
なんでこの人(母)は学習しないのよ…。
開演
籠城した母の携帯電話に、兄から着信が入る。
しかし、母は恐怖から、その電話に出る事が出来ない。
何度もコールされ、やがてはコールが鳴り止む。
コールが鳴り止めば、間髪入れずにコールが始まる。
兄は何度も繰り返すが、母が電話に出る事はない。
兄は電話を諦めたのだろう。
ドンっ……ドンっ……ドンっ……。
玄関がノックされる音が鳴り響く。
うぅぅー!来ないで下さい!ナンマイダァーナンマイダァー!!と震える母。
恐怖に怯える母とは裏腹に、兄のテンポは上がる。
ドンっ!ドンっ!ドンっ!ドンっ!
走る気持ちを抑えきれない兄。
その力強いドラムに、ヴォーカルが反応した!!
パイセン「野郎!ぶっ殺してやる!!」
パイセンがブチギレた!!
雄叫びを上げたパイセンは、キッチンから包丁を取り出して玄関へダッシュした。
母は慌ててパイセンを物理的に止める。
母は小柄だが、パイセンはもっと小柄らしく、肉体的には止められたらしい。
しかし、パイセンの熱い心は止められない!!
パイセン「やってやるよ!この野郎!!」
パイセンの熱いシャウトがステージに鳴り響く。
扉の外の兄にどこまで聞こえたのかはわからない。
しかし、パイセンの熱い心は伝わった様だ!!
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!!!
パイセンの熱いシャウトに、兄は熱いビートで応えた。
てんわやんわ
さぁ、困ったぞ。
母にとって、初めてのパターンだ。
兄は扉を殴り疲れれば、そのうち帰るだろう。
しかし、こちらではパイセンも暴れている。
更にマズイ事に、兄とパイセンの熱い心は共鳴し合い、そのテンションは収まる気配が無い。
母はここで、冷静な判断を下す。
「警察に助けを求めよう!!」
すぐに携帯電話を取り出し、110番を入力。
母「1、1、0、発しn
📱「させねえよ!!」
神がかり的なタイミングで、母の発信は兄の着信で妨害された!!
着信を受けている間は、こちらから発信出来ない。
兄からのコールが止む。
母のターンだ!!
母「1、1、0、発s
📱「無駄だ!!」
空くも鳴り響く携帯電話のコール。
警察へ発信するスキが無い!!
当然だ。
母は警察に発信する為に「1、1、0、発信ボタン」4つ押さなければならない。
兄は「リダイアル、発信ボタン」の2つで済む。
勝てる訳が無いのだ!!
右を見れば、玄関の外で兄がドコドコ。
後ろを見れば、パイセンがバタバタ。
手元を見れば、📱がピロピロ
母は正に、「てんわやんわ」であった。
閉幕
この熱狂したゲリラライブの中、母は再び冷静な判断を下す。
「パイセンの携帯電話からかけよう」
かなりのファインプレーだ。
兄はパイセンの番号を知らない。
母「1、1、0、発信!!」
ビンゴだ!!
問題無く警察に繋がる。
母は事情を説明し、救助を求めた。
警察への通報から、驚くほど早い到着だった。
恐らく、母より先に近隣の住民方が通報していたのだろう。
警察官が到着した時、既に兄はトンズラこいていた。
小賢しい兄だ。
その件については、それから何もない。
いつものウヤムヤで終わった様だ。
チッタ「そういう話をもっとちょうだいよ。」
カーさん「勘弁してよもう…。」
教訓
この一件で、僕は母から大切な事を教わった。
相談する相手はちゃんと考えよう!!
友人を思うパイセンの気持ちは本物だろう。
しかし、その結果は、事を荒立てただけだった。
母は、パイセンが僕に説教をした時点で気付けた筈だ。
「この人にニーちゃんを関わらせてはマズイ」と。
僕はパイセンに説教をされた直後に、友人にその事を話した。
その友人はこう言った。
「そのパイセンは、チッタのカーさんに自分を重ねたのかもね。」
つまり、
- パイセンも自分の家庭に問題を抱えている。
- 自分と似た問題を抱えた友人(母)。
- 友人の困った姿に自分を重ねる。
- パイセンが自分の問題に対して「やりたかった事」を友人の家庭に持ち込んだ。
こんな事を僕に伝えたいんだと認識している。
パイセンの事情は知らない。
そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
だけど、可能性は十分にあると思う。
パイセンは、母の問題を解決したかったのだろうか?
無意識下では、自分の問題に対して、自分がやりたかった事をしただけじゃないのか?
そんな風に思う。
お金の面での助けもあったのだろう。
愚痴を言いたい気持ちも分かる。
僕も誰かに話を聞いてもらう時、「その話」をしても大丈夫な人なのか。
それを見極める努力をしていこうと心に刻んだ。
ドリフかなw
パイセンほぼ無関係なのに、一時の感情で包丁持ち出しちゃうとかね…泥酔し感情もヒートアップして全く冷静な判断出来なくなってたんだろうね。世の中の傷害事件って、だいたいこういう流れで起きちゃいますよ。ってテンプレが分かるとても良い記事でした。
こうやって文章で読むとよく分かるけど、母の「自分以外の他者に、厄介事をなんとかしてほしい。代行してほしい。」って、弱い心から全ての問題が発生しているね。
兄からの暴力という実害をとめる対抗策をとりつつ、シラフで兄と対面して母自身が出来る事と出来ない事を兄に伝える。
他力で解決しようとするんではなくて、兄の恐ろしい部分と逃げないで対峙し続ける事、親子として理解しようと関わり続けるって必要な気がするな〜。もちろん実害を回避する策をとりつつだけど。
チッタが薄情になった過程や理由があるように、兄にも母に対して暴力的になった理由があり、そこがまるで理解されず解決されていないから何年も収まりがつかないんだろうし‥
難しいね〜。素人がどうにかなるレベルじゃないね〜。
ドリフだよねw
正にその通りだと思う。
兄と母の問題は、兄と母同士が直面しなきゃ解決しない。
その為に、周りや専門家に協力を頼むのは凄く大事だけど、母自体が直面しなければ一時しのぎにしかならない。
丸投げでは何も解決しないのよね。
その問題よりも先に、まずは母が母自身の問題と対峙する必要がある。
そこを片付けなきゃ、兄との問題に着手しようなんて出来ないだろうし。
そう言う動きを見せてくれていたら、俺だって手を貸した。
そう言う気持ちが見られなかったが為に、問題の解決は無いなと。
わたしゃ安全圏へスタコラサッサよw
その問題よりも先に、まずは母(父)が母(父)自身の問題と対峙する必要がある。
これは我が家も一緒です。これをやらないで、他者や金の力で問題を解決ってのは無理なんだよね。