中学3年生の夏前の頃。
高校受験に向けての大事な時期の事。
期末試験が迫っていて、クラスメイトは少しピリついていた。
そんな中、我が家に一報は入った。
父方の祖父が亡くなったとの事だ。
両親は、その1年前に離婚した。
更に僕は、高校受験を控えた大事な時期。
僕たちは関東圏で暮らし、両親の実家は北海道だ。
葬儀を出席するとなると、何日かの滞在が必須となる。
しかも、葬儀日程と試験の日程が丸がぶりであった。
僕は、抗議する事もなくパス出来るものと考えていた。
オブラートに包んだ言い方をすれば、葬儀の出席は気が進まなかった。
と、言うか、絶対行きたくなかった!!
大嫌いな父の親だ。
弔う気など無い。
そもそも祖父と会った回数なんて、片手でも余る。
しかも、僕が物心ついた頃には、祖父は寝た切りだった。
遊んでもらった記憶どころか、まともに話した記憶も無い。
何より、父方の実家に行くというのは、敵地に向かうのと同じ意味であった。
父の心を壊した一因は僕らにもある。
しかし、当然僕たちも苦しんだ。
僕たちを苦しめた父の行動を、母は祖母に意図的に隠していた。
息子の心を破壊し、ボロボロにした頭のオカシイ輩。
僕らに対する祖母の印象なんて、そんなものだろう。
実際に僕は、電話で祖母と口論になった事が多々あった。
他の親戚連中も、そんな認識だろう。
そんな群衆の中に飛び込める程の強いメンタルは持ち合わせていなかった。
しかし、呆気なく出席する方向で話が進んだ。
冗談じゃあない!!勝手に行ってきてくれ!!
当然駄々を捏ねたのだが、僕の駄々が通る事は稀であった。
カーサン「チッタは優しい子だから。ね、お願い…」
まただよ。
いつもの呪いの言葉だ。
これを言われると、僕は何も言えなくなるのだった。
仕方ない。
テストは捨てよう。
母の世間体の為に犠牲になろう。
葬儀に行かなくても、テスト勉強などする気は無いが…。
カーサン「あと、ニーちゃんは行かないから。大学が忙しくて…」
嘘つけw行ってないじゃん!!
入学してから、ほとんど行ってないじゃん!!
兄は「大学が忙しいから行かない」の一言で欠席が決まった様だ。
母は兄に甘いのだ。
いつもの理不尽さにも腹が立った。
それよりも敵地に向かうのに、味方はひとりでも多く欲しかった。
兄とは一緒にいたくないが、兄には着いてきて欲しかった!!
当然駄々を捏ねたのだry
なんやかんやあった後、僕と母は二人の実家に着いた。
父方の親戚と顔を合わせたくない僕は、母方の実家に逃げた。
しかし、お通夜が始まれば嫌でも顔を合わせる事になる。
お通夜の席は、なんとも気持ち悪い空間であった。
祖母や父の兄弟達も、僕に接触してくる事はなかった。
「言いたい事あるなら言えば?喧嘩なら買ってやるよ…」
完全に疑心暗鬼に陥っていた。
目に映るものは全て敵に見えた。
しかし、その敵は一向に攻撃の姿勢を見せない。
勝手に敵視し、勝手に緊張のレベルを上げる。
嫌だ…嫌だ…この空間は気持ち悪い…。
あぁ…心が壊れていく…。
疑心暗鬼に陥っていた僕は、その頃患っていた厨二病をぶり返していた。
もう無理だ。
救援を求む!!
兄に電話した。
兄は敵だ。
しかし、父のことに関しては、同じ敵を持った同志である!!
とおるるるるるん
兄の携帯を鳴らす。
兄の声が恋しく感じたのは、生まれて初めてだった。
ニーサン「あん?」
チッタ「つらいです。」
ニーサン「wwww(爆笑」
ニーサン「行ったお前が悪い。俺、ゲームしてっから」ガチャッ
所詮は利害の一致しただけの同志。
繋がりは豆腐よりモロイ。
あぁ誰でも良い!!いっそ喧嘩売ってきてくれ!!
祖母たちが僕らに悪い印象を持っていたとしても、向こうは大人だ。
祖父の葬儀の場を荒らす様なマネはしない。
脳内にバグが発生したチッタは、ただひたすらにトイレと席を往復した。
そんなチッタを救援に来てくれたのは父だった。
何度目かのトイレに立った時、父と母がふたりで話しているところに出くわした。
トーさん「よく来れたな…」
つまりは、不倫したお前(母)がよく俺(父)の父の葬儀に顔を出せたな。と責め寄っていたのだ。
さすがトーさん!!あんただけは大人の対応なんてしないでくれると信じてたよ!!
すかさず「何様だゴルァ!!お前がしてきた事全部ブチ撒けてやろうか!!」と喧嘩を売った。
あまり覚えていないが、おそらく僕は笑っていたと思う。
すぐ様母方の実家に送られた。
その後の葬儀は参加だけして、終わればそそくさと我が家へ帰った。
酷く疲れたのを覚えている。
兄は笑顔で迎えてくれた。
ねえねえ、今どんな気持ち?ドンナキモチ?
疲れ切った僕に、心底嬉しそうに戯れてきた。
今だけは、あんたのそのウザさ、心地良いよ…。
葬式では、そんな心理だったのね。喧嘩売ってくれの心理に草。兄の電話ゲスだな〜w
完全に疑心暗鬼だったからね。
腹を空かせたライオンに囲まれているのに、襲って来ない。
常に神経が張り詰めてる感じだった。
いつも通りのニーさんのゲスさに、心が一瞬ニュートラルに戻ったよw