こいつらとは分かり合えないなぁ

祖母の法事

20代後半の頃である。

北海道にて、僕たち家族が揃った事があった。

 

ある夏の日、母から連絡が入った。

その頃の僕達の関係は、かなり希薄なものだった。

久々の連絡である。

母からの連絡は、母方の祖母の法事に出て欲しいとの事だった。

その連絡の1年前に、祖母は他界した。

僕は祖母の葬儀を欠席した。

祖母の事は好きでも嫌いでもなかったが、母と兄に会いたくなかった為に行かなかった。

(僕が嫌いなのは父方の祖母です)

 

僕は20代後半で、自分の生きにくさをなんとかする為に色々やった。

愛着障害やらアダルトチルドレンやら虐待についての本を読み漁った。

呪いのノートを作成してみたり、毎日ランニングしてみたり、寝る前には座禅を取り入れたりした。

祖母の葬儀には間に合わなかったが、法事のお願いをされた頃には精神的にかなり穏やかになっていた。

その頃の僕は、僕の家族を「許す」事を目標にしていた。

中間試験に丁度良いかも。

そう思って、法事に参加する事にした。

いざ、北海道へ

母と兄と、最寄駅で落ち合った。

座席に座るなり、「プシュ!」缶チューハイを開ける母と兄。

いやここ、ボックス席じゃねーから!!

しかも、平日だから!!

アルコールが必要なら、家でキメてから来てくれ!!

通勤でゴッタ返す車内。

仕事や学校に向かうであろう人達が立っているのに、こいつらは堂々と座って酒を飲む。

その頃兄は病的に太っていて、2人分の席を占領する始末だ。

挙げ句こいつらは、空けた缶を座席に置いて行こうとしやがった。

勿論、僕が回収しました。

そんな僕をふたりは、「あれ?こんな意識高い系だったっけ?」とやりにくそうに見ていた。

出鼻を挫かれた気分だ。

 

そんなこんなで北海道に着いた。

それから1週間、母の兄である叔父の家でお世話になった。

母の実家に叔父が住み続けていて、実質は母の実家である。

母の実家周辺は、絵に描いたようなド田舎。

田舎日常系アニメの世界に来たみたいで、散策に出て迷子になってみたりと楽しんだ。

法事自体は2日間程度のもので、他は自由に田舎ライフをひとりで楽しんでいた。

そんな僕に、母と兄はサプライズを用意してくれた。

家族が揃った

帰宅の2日前の日に、父が来ると言うのだ。

正直、気乗りがしなかった。

チッタ「その日は近くの神社で、夏祭り準備の草刈りがあるから行きたい!!」

アラサーの抗議は却下された。

 

法事も無事に終わり、父が来る当日を迎えた。

母と兄は、その数年前にも父と会っていたらしい。

僕はざっと10年ぶりの再会だった。

チッタ「おぅ…」

トーさん「おぅ…」

や り づ れぇw

今更話すことなんてないよぅ。

カーさん、ニーさん、潤滑油になってよぅ。

ふえぇ…。

 

なんとか共通の会話を探る。

父は野球中継が好きだった。

僕も当時、楽天戦を観れる環境だった為、その話題で攻める事にした。

そこから父による、当時の楽天の星野仙一監督批判が始まった。

僕はにわかだから良いけどさぁ。

どうなのよそれ…。

 

久々の息子との再会で舞い上がったのか、父の酒の量は結構なものになった。

カーさん「飲み過ぎだから…。それで最後ね」

トーさん「もう一杯」

このやり取りが何度も繰り返される。

過去の記憶がフラッシュバックして、かなり気分を害した。

こいつ、変わってねーなぁ…。(悪い意味で)

 

そろそろお開きになり、父を帰す為にタクシーを呼んだ。

父の帰り際に叔父が余計な事を言った。

叔父「明後日チッタが帰るから、明日も来なよ」

黙ってて下さる!?

叔父は我が家の事情を知っている筈だが、あまり理解はしていない人だった。

こうして、チッタの北海道滞在最終日も父が来る事になった。

見えている世界の違い

あーあぁ、夏祭り行きたかったなぁ…。

北海道滞在最終日。

アラサーが項垂れていると、父が到着した。

父は、現れるなり母に突っかかった。

トーさん「余計な事するなよな」

母は前日の父の帰り際、泥酔した父の代わりにタクシー代を前払いしていたのだ。

この人、ブレねーなぁ…。

妙なプライドだけは一丁前だ。

 

最高のスタートを切った家族の団欒は、しんみりした方向へ向かった。

昔の思い出話になり、あんな事があった、こんな事があったと、父、母、兄が話す。

僕は黙って聞いていた。

父がまだ働いていた頃の話だ。

兄は知らんけど、父と母は、その頃が人生の絶頂期だったらしい。

「あの頃は良かったなぁ」

あの頃ってのは、俺が理不尽に殴られても、誰も助けてくれなかった頃の事か?

 

怒りは湧かなかった。

悲しくもなかった。

父はどうか知らんが、母にはその頃の事を話した。

兄は当事者だ。

そんな彼らが被害者を前に、「あの頃は良かった」と楽しそうに話していた。

酒が入っていたとは言え、それを言ってしまう無神経さ。

そもそも、僕の地獄は彼らにとっては些細なものなのかもしれない。

僕の人生が右肩上がりなのに反して、彼らの人生は右肩下がりなのだ。

見えてる世界が根本的に違いすぎる。

過去の恨みに対して、自分がどれだけ精算出来たかを確認する中間試験だった。

試験結果は、まだまだ修行が足りないと分かった。

しかし、過去の恨みとか関係無しにして思った。

こいつらとは分かり合えないなぁ

それが分かっただけ、大きな収穫だった。

 

4 COMMENTS

シモケン

ど平日、通勤でごった返す車内で酒をプシューしたのね。
自分の家族だったらかなり嫌だな〜と思ってしまった。

この辺も過去に話は聞いていたけど、「平日の通勤ラッシュ時に起きた出来事」ってのを俺は覚えていなかった。改めて文章で読むとよく伝わるね。

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titta31@

話す時は瞬発力が必要だけど、文章だとじっくり練る事が出来て良いね。
その分、考える事も多くて大変だけど。

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